G-Bucks
by Phil Galfondこの記事を始める前に、以下のコンセプトがポーカーにおいて最も重要なものであることを強調しておきます。言葉で説明できるかどうかは別として、このコンセプトを理解していない優秀なプレイヤーなど居ないでしょう。このコンセプトがうまく説明されているところをまだ見た事は無いので、私から出来る限りうまく説明しようと思います。退屈な計算の話も出てきますが、理解できるならゲームをする上で役に立つので、しっかりと読んで下さい。
絶賛されているDavid Sklanskyの本の中で"Sklansky Dollars"という言葉が紹介されています。もし知らないようであれば、The Theory of Pokerを手にとって今日にでも読んでほしいのですが、この記事にも関わる内容なので簡単に説明します。Sklansky Dollarsを使うと、運の要素を抜きにした結果を算出することができます。Sklansky Dollarsの計算方法は、ポットにお金を注ぎ込んだ時の自分の勝率と、ポットの額の掛け算です。
例えばAAを持ったあなたが、JJを持った相手とプリフロップでオールイン対決になって、実際に10,000ドルを負けたとしましょう。実際には10,000ドル負けましたが、80%の確率であなたの勝ちなので、Sklansky Dollarsで見ると8,000ドル勝ったことになります。Sklanskyの説明では、長期間で見るとツキ・不ヅキは平たくなるので、Sklansky Dollarsで利益が出続けているならば、長い目で見れば勝てるはずなのです。最終的には長い目でみると、Sklansky Dollarsと実際の収益は同じ値になります。ポーカーでは必然的に起こるスウィングに直面しても、ティルトせず、正しい判断をしていくための大切はコンセプトなのです。
私はこのコンセプトに改良を加えてみました。私もSklanskyと同じくらい利己的なので、自分の名前を入れて、"Galfond Dollars"(略してG-Bucks)と名づけて紹介します。
まずは、ハンドレンジを確認しましょう。例えば、9人テーブルのUTGからAKでレイズした、とします。実際のハンドはAKですが、あなたのハンドレンジはもっと広いのです。ハンドレンジとは、同じ状況であなたがレイズしうるすべてのハンドのことです。よって、あなたのUTGでレイズするハンドレンジは、AKo,AKs,AQsと99以上のポケットペアかも知れません。ボタンがコールし、フロップでQ,5,6のレインボーで、Qがハートだとしましょう。ここであなたはポットの3分の2をベットします。あなたのハンドはAKだが、99からJJまでのペアは常にチェック(実際には"常に"同じアクションはしないでしょうが、今回は分かりやすくするために常に同じパターンであるとします)QQのときも相手を惑わす目的で2回に1回はチェックするとしましょう。ここでは、あなたのハンドレンジはAKo,AKs,AQs, AA, KKとQQが半分、となります。
ここまでついて来れてますか?残念ながら、皆さんの答えが聞けないので続けることにします。さて、ボタンがコールしてターンが2、ハートがボードに2枚になりました。ここであなたはポットの4分の3をベットします。実際のハンドはAKですが、ここでまたハンドレンジが変わってきます。あなたのハンドがハートの無いAKの時はターンであきらめる、AQsならポットサイズをコントロールしたいのでチェック、だとしましょう。するとハンドレンジはAK,AA,KK,そしてQQが半分。ついて来れてます?OK
ボタンがコールして、リバーが2。ブラフしたくなります?その考えは一旦保留にしておきましょう。このハンドについては、また後で話すことにしましょう。
ハンドレンジについて理解できたとして、Galfond Dollarsについて話しましょう。Galfond DollersはSklansky Dollarsと似た働きをします。けれども、相手のハンドと比べるのは、自分のハンドそのものではなく、ハンドレンジの全てのハンドです。(次のレベルとしては、ハンドレンジ対ハンドレンジですが、数学的にかなり面倒なことになってしまいます。)ですからシンプルな例でいきましょう。
50ドル−100ドルのノーリミット、ヘッズアップです。
相手のスタックは1,000ドルで、あなたは相手のスタックをカバーしています。あなたはSBにいます。あなたはKQ,JJ,QJs,76sでならプリフロップオールイン、それ以外ならプリフロップでオールインをしない、と決めています。(このオールインレンジは少し不自然ですが、ここでの説明にはこのレンジで行きましょう。)あなたにQJが配られ、決めていた通りにオールインします。相手は少し考えて、K9でコール。ボードはQ56K2で、あなたは2,000ドルのポットを負けてしまいます。ではリアルマネー、Sklansky Dollars、G-Bucksでどうなるか計算してみましょう。
リアルマネーでは、1,000ドルの負けです。
Sklansky Dollarsでは、80ドルの負けです。
(QJsのK9oに対する勝率46%x2,000ドル=920ドル, 1,000ドル-920ドル=80ドル)
G-Bucksで見てみると・・・
覚えてますか、ハンドレンジと相手のハンドで計算するんですよ。ではまず、オールインをすると決めたハンドレンジがどれくらいの確率で配られるかを見ていきましょう。
KQの種類は16通り(KQ,KQ,KQなど)、JJも6通り、QJsが4通りで、76sが4通り。全部で30通りあります。K9oに対してのそれぞれのハンドの勝率を見ていきましょう。
KQ対K9o − 74.0%
JJ対K9o − 72.0%
QJs対K9o − 45.5%
76s対K9o − 41.0%
次に、それぞれの勝率と、そのハンドが配られる確率の掛け算をします。言い換えると、あなたのハンドレンジの総組み合わせ数に対して、それぞれのハンドの組み合わせ数を比べるわけです。
KQ,JJ, QJs,76sの組み合わせの数/30
(0.74*16+0.72*6+0.455*4+0.41*4)/30
=19.85/30
=0.653
よって、あなたのハンドレンジはK9oに対して勝率65.3%、つまり、相手がK9oでコールする時に、平均して2,000ドルのポットから1,305ドルを勝ち取れるわけです。305ドルの利益が生まれるので、K9oがあなたのQJsのオールインをコールした時、あなたは305ドルのG-Bucksを獲得したわけです!
まとめると・・・
リアルマネー: -1,000ドル
Sklansky Dollars: -80ドル
Galfond Dollars: +305ドル
この例はあなたのするポーカーにはあまり重要ではありませんが、G-Bucksのコンセプトが理解してもらえた事を確認してもらいたいです。では、より興味深いハンドに移りましょう。
先ほど話を中断したハンドならどうなるでしょうか?あなたはAKでUTGからレイズしたあと、2回ベットをして、コーラーが一人いて、あなたはフラッシュ目を逃しました。確認すると、ボードはQ6522で、プリフロップでレイズしてフロップとターンでベットするハンドレンジはAK,AA,KKとQQの半分。リバーでブラフをするべきかどうかを検討しているところです。相手はトップペアや、JJ、TTのようなハンドを持ってるとしましょう。それなりに強いけれど、リバーでブラフにしか勝てないようなハンドです。AK、それからあなたのハンドレンジのハンドを持ってポットと同額をベットしたとしましょう。相手がコールしたときに、どれだけの利益もしくは損益があるでしょうか?
ポットの額には触れていませんでしたが、ポットに5,000ドルあるとしましょう。あなたが5,000ドルのベットをして、相手がコールすると、リアルマネーとSklansky Dollarsでは相手は10,000ドルを獲得することになります。これ以降配られるカードは無いのですから。G-Bucksでは相手はいくら得られるのでしょう?
あなたの持つ13.5通りのハンドのうち(QQの組み合わせは3通り、QQでベットをするのは2回に1回なので1.5通りと数えます)相手が勝てるのはひとつだけ。
あなたのハンドレンジに対して、相手がコールすると3,889ドルの損失になるわけです。よって、相手があなたのハンドレンジを理解しているなら、とんでもないコールである、と言えます。観察力のあるプレイヤーなら、ここであなたに余計な利益をもたらしたりはしないでしょう。コールし過ぎているような弱いプレイヤーには、ほぼ常にいいハンドを持ってベットするのが賢いプレイの仕方と言えるでしょう。しかし、あなたは今まで上級者を相手にするには、十分にブラフせずに利益を上げるゲームをしてきたはずです。相手に悟られないよう、そして相手をより厳しい判断に追い込めるよう、あなたのハンドレンジをぼやかす事を感が無くてはなりません。
例えば、あなたが78s,AJ,AT,そしてAKsの半分を持っていることもありえるなら、このリバーにおいて相手の選択肢は狭まります。ここであげた例では、中級者・上級者相手には、AKでベットしなくてはなりません。そうでないと、あなたは相手にとってより読みやすいプレイヤーになってしまいます。あなたは常にブラフしないわけですから。
ハイレベルなゲームで、UTGからTT以上、AKでのみレイズしない理由はここにあります。賢いプレイヤーには、フロップが開いたときにあなたのハンドが簡単に分かってしまいます。
例えば、フロップで765のレインボーがきたら、あなたがこのフロップを好きになれないのを彼らには分かってしまうのです。
オーバーペアを持ってたとしても、相手から反撃されたときにはフォールドする必要さえあります。あなたのUTGからのレイズするであろうハンドレンジでは、セットやストレートはあり得ないからです。ハイレベルなゲームでは、強いハンドのときだけベットするのも、ドローを逃すたびにポットをあきらめるのも、やってはいけないことなのです。小さくバリューベットを打つことも考えなくてはなりません。以下、タイト過ぎるバリューベットがどれだけ面倒なことになるかの一例です。
あなたはしっかりとしたアグレッシブなプレイヤーで、相手に大きなプレッシャーをかけていきます。プレッシャーをかけるのは良いことです。全てのストリートで大きくベットするときは、ドローを引けなかったブラフの時もたまにあるし、ナッツを持っている時もあります。スロープレーのときは大きくベットしません。しかし、ワンペアのようなハンドでトラブルに巻き込まれないよう注意を払っています。
100ドル/200ドルの6人テーブルで
全員が20,000ドルを持って始まります。
あなたは98でボタンから700ドルにレイズ、賢く楽観的なプレイヤーがBBでコール。(常識の範囲で、すぐに相手のハンドを自分より以下と読むプレイヤーを、私は楽観的と呼んでいます。)
フロップはQT5。(ポットは1,500ドル)
BBはチェックし、あなたは1,500ドルベットします。BBはコール。
ターンで4。(ポットは4500ドル)BBはチェックし、あなたは4,500ドルのベット。BBはコール。
リバーは5。(ポットは13,500ドル)
BBはチェックし、あなたは残りの13,300ドルでオールインします。BBはAJで即コール。
あなたは98を見下ろして、BBはなんてひどいコールをしたんだ、QQを持ってても同じようにベットしたのに、と思いながらマックします。BBは40,000ドルのポットを手にします。
しかし、あなたがトップペアなどをもって、大きくベットをしてこないし、大きくベットをするときはいつもドローのときである事を賢いプレイヤーに知られているのです。KQやAAをあなたが持っているなら、ポットサイズをコントロールするためにあなたはチェックすると知っているのです。つまり、ターンでバリューを求めてベットするのはツーペアかセットを持っている時と言えます。加えて、あなたはターンでオープンエンド・ストレートドローやフラッシュドローの時もベットします。では、そのハンドレンジでリバーのコールがどれだけひどかったかを検証してみましょう。
プリフロップでレイズ、全てのストリートでベットするあなたのハンドレンジは
QQ,TT,QT,55,44,A5,76, KJ,J9,A2〜AK,K9,J8,98,87,97
特定のハンドの組み合わせを数える方法をお教えしましょう。例えば、誰かがセットを持っていると考えるとき、それぞれのセットは3通りずつあり、トップペア・トップキッカーは12通りあります。相手はセット、もしくはブラフに違いないと考えるときは、相手がセットを持っていない可能性がどれくらいあるかを理解しなくてはいけません。同様に、スーテッドハンドはオフスートハンドよりはるかに可能性が低いのです。
さて、G-Bucksでどれだけ相手のリバーのコールが悪かったかを見てみましょう。リバーまで全てのカードが見えているので、G-Bucksで考えるべきは単純に、リバー時点での相手のハンド対あなたのハンドの勝率です。もしリバーより前のストリートであれば、リバーまでにどうハンドが発展していくかも考えなくてはなりません。
私にとってもあなたにとっても退屈になるだけなので、先ほどのように一つ一つ分析はしていきません。ネット上には、ハンドレンジを入力してあなたのハンドがそのレンジに対して検証してくれるプログラムがあって、ハンドの組み合わせに対して計算してくれます。私が先ほどあげたハンドレンジに対して相手がどれだけ良いコールができたか、興味があれば試しにこのプログラムを使ってみてください。相手がAJを持っているので、相手はあなたにAとJが無いと知っている点に注意して下さい。
ではプログラムにハンドレンジを打ち込み、相手がどれだけの確率で勝っているかを見てみようと思います。もし彼が正しければ彼は26,800ドル勝つことになり、間違っていれば13,300ドル負けるわけです。
よって、イーブンにするには彼のコールが3回に1回は正しくないといけません。計算してみると、70.5%の確率で相手が勝っているという結果がでました!リバーでコールするには十分すぎる数字です。相手のリバーコールで15,000 G-Bucksを獲得できて(リアルマネーでは26,800ドル)、あなたに対して相手のコールは明らかに正しいものであったと言えます。
このハンドに絡むほかの要素についてもお話しましょう。まずは、相手のターンのコールについて。次に、相手に難しい判断をさせるためにどうあなたのハンドレンジをごまかせるかです。
あなたのハンドレンジに対して相手のリバーコールは特別なものでないのに対して、ターンコールはかなり怪しいものでした。完全に勝率をみて判断できるので、リバーでの判断はとてもシンプルですが、リバーより前の判断はかなり複雑です。Galfond Dollarsで相手のターンでのAJコールを見てみましょう。あなたが先ほどのハンドレンジでターンでベットして相手がコールする時、彼には54%の勝率があります。ポットの9,000ドルを勝ち取るのにコールに4,500ドル必要ですから、ターンのコールは悪くなさそうに見えます。もし4,500ドルのあなたのベットがオールインであなたのハンドレンジが同じなら、相手のコールは2,790G-Bucksを獲得します。(同じ数字が出るかどうか、あなたも計算してみてください)しかしながら、たくさんのドローのありうるこのボードで、アウトポジションからのオールインとなると、相手のコールはそれほど良くはありません。はっきりとは説明できませんが、このようなシチュエーションの時に、十分なG-Bucksがないスポットではフォールドすべきなのです。
以下がG-Bucksはプラスでもフォールドすべき状況例です。
・まだ後ろにチップがあって、ポジションがある時
・ドローの多いボードで、どのカードが相手のハンドを強くするか分からない時
・相手がアグレッシブで強いプレイヤーの時
・あなたのハンドに発展性が無い時
逆に、G-Bucksを計算した結果、コールが正しくないと見える状況でもコールできるスポットもあります
・後ろにまだチップがあって、ポジションがある時
・ドローの多いボードで、あなたがドローを装ってるとき(特にポジションがあるとき)
・鋭い読みを持っていて?ルース過ぎるか、タイトすぎる相手?で、あなたは強いアグレッシブなプレイヤーである時
・あなたにとても強い役を作れるアウツがある時(スタックが深いほどこれらの要素は強くなります)
リバーでハートが落ちると相手は何もできなくなってしまう。よって、もしあなたがしっかりとしたプレイヤーであるなら、AcJcはここではフォールドすべき、というのが私の意見です。リバーでハートが落ちたなら、あなたはブラフを打って、本来勝っているはずの相手を降ろすことが出来ます。もしくはストレートが完成して、あなたのことをフラッシュドローを引けなかったと見ている相手からいくらか引き出せるかも知れません。ポイントはリバーでもう一枚カードが落ちること、そしてそのカードが全てにおいてあなたの有利である、ということです。以上の理由から、もしあなたに相手以上の腕前があるなら、平均するとリバーであなたに利益をもたらすはずです。
もう一つ、良い例を紹介しましょう。先ほどと同様、ブラインドが100ドル/200ドルで、20,000ドル持ち。アグレッシブな優秀なプレイヤーが、ボタンから600ドルにレイズし、あなたが55を持ってBBでコール。フロップがJT2。あなたがチェックをすると、相手が1,000ドルをベット。彼は何を持っててもここでベットしてくるプレイヤーです。たいていあなたが勝っているでしょうが、それでもフォールドするのが正解です。よく考えて理解してみてください。おそらくあなたが勝っていて、勝率で言うと65%以上はある、そしてポットのオッズは2対1。でもフォールドするのが確実に正しい。何より、この先このハンドが終わるまでには不利な立場になるからです。ボタンからの一般的なレイズのハンドレンジに対して、このフロップではあなたのハンドは44%程の勝率です。フロップでのポットオッズは、コールするとG-Bucksで利益をもたらすわけですが、ターンとリバーが相手に有利に働くという先の例の事を考えなくてはなりません。
では、先ほどのAJのハンドに戻って、あなたがターンとリバーでどうすべきかについてお話しましょう。
フロップはQT5。(ポットは1,500ドル)
相手はチェックをして、あなたが1,500ドルをベット。相手はコール。
ターンは4(ポットは4,500ドル)
相手はチェックをして、あなたが4,500ドルをベット。相手はコール。
リバーで5(ポットは13,500ドル)
相手はチェックをすると、あなたが残りの13,300ドルでオールイン。相手はAJを持って即コール。
先ほど、あなたは今回と同様のアクションを以下のハンドでも行う、という話をしました。
QQ,TT,QT,55,44,A5,76, KJ,J9,A2〜AK,K9,J8,98,87,97相手のコールは、弱いワンペアでコールしてるのと同じくらい厳しいものなので、リバーであなたに働くよう気を使わなければなりませんが、大きなアクションをする必要はありません。よって、ターンでAK,AhJh以外のAハイ・フラッシュドローを持ってチェックしてみましょう。Aハイ・フラッシュドローでのチェックの方がいいプレイであると思います。なぜならハートが落ちたときに、自分がどの位置にいるかがわかるのに対して、9h8hではチェックした後フラッシュが完成してもこのフラッシュがどれだけ強いのかが分かりません。その上、Aもアウツとして数えられる可能性もありますし、アウツのたくさんあるハンドでチェックレイズされるのが嫌だからです。