NLオマハHi/Lo戦略(by木原直哉)

 


木原直哉

2011年3月、東京大学理学部を卒業。
チームポーカースターズ契約プロ。
2012年、第42回世界ポーカー選手権
「ポットリミットオマハ6handed」で優勝。
日本人としては初めてポーカー世界選手権
(WSOP)でタイトルを獲得した。


ノーリミット・オマハ・ハイロー(NLO8)の戦略の解説を頼まれたので、ざっくりですが戦略の解説をしていこうと思います。

このゲームはポットが膨らみやすくて引き分けも多く、レーク負担が非常に大きい種目です。
($1/$2の場合、約11BB/100ハンドものレークがかかる!)。低いレートなら、この記事を読んだだけでも勝てるようになるかもしれませんが、高いレートはレークバック無しで黒字化するのは至難です。このゲームをメインに稼ごうとする人はスーパーノヴァやエリートなどの高いVIPレベルを持って、大きなレークバックで稼ぐことが前提となります。


1、プリフロップハンドランキング
ホールデムの場合は、最強のハンドのAAは、ランダムハンドに対して85%の勝率があり、ハンドランク上位5%を相手にしたときにも80%以上の勝率があります。
一方、NLO8のハンドランキングトップはAA23dsですが、ランダムハンド相手に72%、上位5%相手に68%のエクイティー(チョップがあるので、勝率ではなく、期待値で表現します)しかありません。ホールデムのAAと同じくらいの頻度やってくるAA2Xssだと、ランダムハンド相手に67%、上位5%相手に63%ほどしかありません。
ですので、ホールデムに比べて、プリフロップでの勝率の差は小さいです。
これは何を意味するかというと、いい手を待ってプレーしても、十分に高い勝率を得られないので、じり貧になりやすいです。
NLO8で勝つためのコツは、相手のレンジに対してエクイティーが50%を十分に超えるハンドで、しっかりとアグレッシブに打つことが要求されるのです。

http://www.caniwin.com/poker/omahahilopre.php

リンクは、オマハHLのプリフロップにおけるランダムハンドに対する勝率ランキングです。
これは、10人参加で誰も降りないと仮定して、リバーまで行った時のランキングなので、実際の勝負(だいたいヘッズアップになる)における強さとは若干異なります。
とはいえ、十分に参考になることは間違いないと思います。

上位5%のハンドはすべてがAを含んでいて、そのほとんどがA2を含んでいることがわかるかと思います。
そして、該当しないハンドは、AA4xとAA3xのいずれかしかありません。
オマハHLは、それくらいAが強いゲームで、Aを持っていないとほとんど参加できないと言っていいくらいです。
そして、KKxxやQQxxは、オマハHLにおいては本当に弱いハンドです。
KKxxは、上位5%を相手にした場合、37%のエクイティしかありません。
また、9876dsとかははっきりいってゴミです。
一見強そうに見えるかもしれませんが、ローは強いハンドが見込めず、実際に強いハイハンドになった時は相手がローを完成させているのでチョップになります。
オマハHLは、ハンドランキングがやや特殊です。
オマハHLが強くなるためには、まずプリフロップでのハンドの強さのランキングを知ることが大切です。

2、プリフロッププレー
これはホールデムとも共通しますが、ポットに最初に参加するときはしっかりレイズインしましょう。
レイズしないとポットはその場では取れません。
さらに、キャッシュゲームにおいては、フロップをみるとレークがかかり、さらにチョップがよく起こるので、ポットが膨らんでレークがかさんだのちにチョップということは多発します。
リンプインは大悪手だと思っておいたほうがよいです。
レイズインするレンジの目安としては、「100÷自分を含めた残り人数」から「100÷自分を含めない残り人数」程度がよいでしょう。
具体的にはボタンなら、自分を含めると3人、自分を含めないと2人ですから、33%から50%の範囲でレイズするのがよいです。
カットオフからだと、自分含めて4人、含めないと3人ですので、25%から33%という具合です。
レークが高いので、キャッシュゲームではもうちょっとハンドを絞ってもよいかもしれませんが、絞りすぎは上で言った理由で良くないです。
ホールデムでは、相手にハンドを絞らせないために、A8oをフォールドして89sで参加したりします。
しかし、NLO8ではそういう心配は無用です。純粋にハンドランキングが高いハンドをプレーしましょう。

ここで、誰かがレイズインしてきたときの対処です。
その場合は、相手のそのポジションからのレンジを想定しましょう。
ホールデムマネージャー等を持っていれば、それのポジションごとのレイズ率をみるのがよいでしょう。
そういうソフトを持っていなければ、すぐに購入しましょうw
というのは冗談で、相手がそのポジションからどれくらいの頻度でレイズしてくるのかを見極めます。
仮に相手がカットオフから30%でレイズインしてくるとします。
あなたはボタンでいい手を持っているとします。どれくらいの頻度で3ベットすべきでしょうか。
基本的には相手のレンジの半分よりやや強いレンジで3ベットすべきです。
この場合は13から15%ですね。
しかし、SBとBBが後ろにまだ控えているので、その分3ベット率は下げます。なので、上位10から12%程度で3ベットするのがよいのではないでしょうか。
カットオフがタイトで、20%しかカットオフからレイズしないのなら、こちらは8%程度のレンジで3ベットを仕掛けます。
3ベットの金額は、レイズ額の3倍から3.5倍(ポット)程度でよいでしょう。
え、3ベット率がめちゃくちゃ高いって?
そうです、NLO8は、そもそも相手よりすごく強いハンドも、すごく弱いハンドも少ないのです。
その状態で大きく利益を得たいなら、相手のレンジより強いと思われる範囲でしっかり強くプレーすることが求められるのです。

ではブラインドからはどうでしょうか。
カットオフからのレイズ率が30%のレイズインに対して、SBからのアクションです。
NLO8では、ホールデムよりさらにポジションが大切です(PLOほどではないと思いますが)。
なので、ポジションがない時は、レイズ率を下げて、金額を上げます。
ポーカーの基本として、頻度と金額は反比例すべきです。
相手が30%なら、ポジションがないところからはBBもいることを考慮して、10%程度のレンジで、相手のレイズ額の4倍程度に3ベットするのが自分のお勧めです。
基本的にコールでの参加は少なめにしたほうがよいでしょう。
同じレイズに対して、BBからなら、同様の頻度での3ベットの他に、5%から10%程度のレンジでコールすることも可能です。
コールした後に3ベットされる可能性がなく確実にフロップが見れるのと、SBより安い金額で済むからです。

3ベットされた場合、我々が議論している程度の十分大きなサイズの3ベットの場合、4ベットを返すなら、オールインします。
NLO8では、エクイティーの差はとても小さいため、4ベットしたら、ほぼコミットしていて降りることはあり得ません。
降りるという選択肢がないなら、小さく刻む意味は全くなく、むしろ相手にオッズコールを許すだけです。カッコつけずに、4ベットをするならオールインしましょう。
コールするべきか、オールインするべきかは、こちらのハンドの強さと、相手の3ベット率によります。
相手の3ベットレンジの半分程度でオールインしますし、そこそこ広いハンドでコールして、フロップ以降のプレーに持ち込むこともOKです。

3、フロップのプレー
ホールデムと違って、オマハはハンドの可能性が広いです。
ですので、読むということは基本的にできません。
相手のハンドの強さは、どのような参加率で参加しているのか、相手はどのようなハンドが好きなのかを考慮に入れます。
そして、相手がかみ合っていない可能性が高いなら、ベットします。こちらが強いハンドを持っている時もベットします。
ベット額の基本は、ハイボードならポットの50から70%、ローが二枚落ちているなら70%からポットベットが目安になります。ローが3枚落ちているなら、ハイボードと同じく50から70%でよいでしょう。
そして、フロップ以降強く戦えるハンドとは

1(ベスト)、ナッツロードロー+ナッツハイドローなどの、ハイもローもナッツが狙えるハンド。完成していなくてもOK。
例、A247持ちで、フロップ3Q
この時点で、フロップオールインまで行く覚悟でOKです。
むしろ、完成してからという考えはぬるいです。両方ともナッツを狙えるハンドが来たなら、相手がトップセットのQQを持っていたとしても50%以上のエクイティーがあります。
50%以上のエクイティーがあるときはとことんアグレッシブにプレーするのが、このゲームを攻略するコツです。
そこまでの強さはなくても、たとえば4Qでも十分にオールインに値します。

2、ナッツロードロー+そこそこのハイを狙えるハンド
例、A247持ちで、フロップ4Q
ナッツロードロー+2ペア。

3、ウイール(A2345)のラップ
例、A247で、フロップ3Q

4、ターンのプレー
基本的に、フロップでのプレーが大切です。
オマハはハイもハイローもスロープレーがほとんどできないゲームです。
ですので、フロップでのアクションから、フロップでどちらが強気に出ているのか読み取ります。
ターンが落ちた後に、第3者から見て、ターンカードはどちらに有利に働くカードかを見極めます。
フロップでこちらが強気に出ていて、ターンでどちらとも言えないカードなら、ほとんどの場合、そのままベットします。
こちらに都合がいいと思われるカードが落ちた場合は、もちろんベットします(仮にそれがブラフであっても!)
ターンで相手に有利と思われるカードが落ちた場合は、自分のハンドの強さと話し合って決めましょう。
フロップで滑っていたブラフの場合は、あきらめるのがよいでしょう。

5、リバーのプレー
基本的には、ここでのプレーをどうするかを考えながらフロップから打つべきです。
とはいえ、上級者同士で戦うと、ターンまででどちらかがベットして相手がフォールドしているかの可能性が高く、リバーまで進んだ時は既にオールインになっていることがほとんどです。
そうでないなら、お互いがチェックして小さいポットになっているか、片方がナッツローでチェックコールだけを繰り返している可能性が高いです。
基本的に、リバーでは1/4をくらわないようにし、3/4をくらわせるようにします。
(編注:1/4とは、たとえばローが引き分けハイが負けで、ポットの1/4しか取れないこと。)

そして、こちらがナッツロー+そこそこ強めのハイを持っているときは、オーバーポットオールインをすることをお勧めします。
また、ローを持っていないナッツフラッシュやトップフルハウスを完成させた時も、オーバーポットオールインが有効です。
一方、こちらがナッツローのみだとします。相手のプレーがナッツローを持っていない可能性が高い(こちらがアグレッシブに打っていて、リバーで2が落ちてのA3ナッツローなど)なら、ブラフでぶち込むのもありですが、基本的にはポットを抑えるようにプレーしたほうがいいことが多いと思います。
相手にベットされた時は、ポット以下ならだいたいコールして問題ないです。
オーバーポットを打たれた時は、多分以前にもやってきているでしょうから、相手がどういうハンドでこれまでオーバーポットを打ってきたか、相手がどういうハンドで「オーバーポットでないベット」をしてきたかを考え直しましょう。
結局、ポーカーは、最後には相手がどういうプレーヤーで、こちらがどういう風に思われているかの勝負です。

6、NLO8でのみ有効な特殊プレー
オマハHLにおいて、Aはとても強いカードです。
それを2枚保持しているAAは、プリフロップではかなりの強さを誇ります。
しかし、AA9Jssなどは、フロップ以降急にプレーが難しくなります。
ですので、PLO8では、相手のレイズに対して、ブラインドからこれらのハンドで3ベットするのは危険です。
スタックが小さく、すぐにコミットしてしまう、トーナメントではもちろん有効です。

AA9Jのようなハンドは、相手が上位5%としても勝率50%ほどです。
なので、プリフロップで相手にオールインされても降りられません。
また、かなり微妙なハンドに対しても同じ程度の勝率です。
上位5%のハンドは、必ずAを持っているので、ハイハンドとしてAをドミネイトしているのが大きいのです。
一方、フロップ以降はとてもプレーしづらいのは変わらないです。そこで・・・
レイズインは普通の金額にしますが・・・
相手のレイズに対しては、「ハンドがばれてもいいので!!!」いきなり100bbの3ベットオールインが有効です!!!
こうすることの最大のデメリットは、(通常額の)3ベットしたときに、こちらにAAがないことがばれてしまうことだと思います。
しかし、ハンドランキング表をもう一度見てください。
上位5%に入っているAAは、かなり強いローを含んでいるものだけです。
そもそも、弱めのAAは、ハンドランキング上位ではないのです。
さらに、相手からAAがないと絞らせないために、AA2とAA3のスーテッド付、AA4+5678のどれか、もしくはダブルスーテッドなどを通常の3ベットに混ぜます。
こうすることで、弱めのAAでプリフロップで4bb獲得できることは非常に大きいのです。
AA9Jssに対する天敵のハンドは、4567dsのようなハンドです。しかし、こういうハンドは良いプレーヤーなら最初からフォールドしているハンドなのです(なので、リスチール限定の戦略です)。

7、PLO8のトーナメント戦略
ここまでNLO8のキャッシュゲームの戦略を書いてきました。
それは、現状スターズのキャッシュゲームでは、PLO8はほとんどなくNLO8ばかりだからです。
しかし、トーナメントではPLO8が主流ですし、WSOPでも二つのPLO8イベントがあります。
なので、PLO8のトーナメント戦略はどう変わるかを考えたいと思います。
トーナメントでは基本的に、ブラインドが上がって、スタックが小さくなります。
基本的に20bbから30bbがアベレージであることが多いです。
なので、3ベットすると基本的にはコミットしてしまいます。
そこで、どう考えるべきかというと・・・
相手のほうが強いハンドを持っていてコールされた時に、被害が小さいと考えるべきです。
そう考えたうえで、相手のレイズに対して、より高い頻度で3ベットしていくべきです。
トーナメントはバブルファクターが常にかかっているので、通常のキャッシュゲームよりコールがしづらいです。
一方こちらがコミットしているのはだれの目にも明らかなので、相手はよりフォールドを選ぶことになります。
さらに、オールインになったとしても、ハイかローのどちらかで助かる可能性もかなりあります。
なので、積極的にリスチールを繰り返し、どんどんポットを取りに行くことが大切です。

ここまで読んで頂いてお分かりになったかと思いますが、ホールデムとは比較にならないくらい、アグレッシブにプレーすることが大切なゲームです。
パッシブにプレーすると、大きいポットは半分、小さいポットはどんどんスチールされて、じり貧で負けてしまいます。
100bbのオールインくらい、いつでも受けるという心構えでプレーすべきです。

ではこれを読んでくれた人の幸運を祈ります。Good Luck!