ブラフ・キャッチング

 

ブラフ・キャッチング
Andrew Brokos著
Two Plus Plus MagazineVol.6, No.6

 

はじめに

昨晩こんな悪夢を見た。ハイステークのノーリミット・ホールデムで、かのフィル・アイヴィー(Phil Ivey)と、ヘッズアップで対戦していたのだ。彼は僕の癖を見つけたらしく、僕のハンドがおおまかに強いか、普通か、弱いかを見破っていた。でもその癖が何か、どうやったら止められるのかが分からない。

リバーで5 8 T Q 2 、フラッシュの可能性が発生。A T を持っていた僕はチェック。フィル・アイヴィーは、また見破ったぞ、ってな顔して「オールイン」宣言。ディーラーがベット額を読み上げる:お互い14,000ドル。たった6,000ドルのポットに。さて、何とか「神様」を射程圏内に収めた形にはなった。でも僕はコールすべきか?

 

最善のコール率(Optimal Calling Frequency)

ご愛嬌。僕はさすがに夢にまでポーカーを見ない―少なくともこんなに鮮明には。しかし、強いが最強ではないと明確に定義出来るハンドのときにリバーでビッグベットを仕掛けられる、という悪夢的状況のいい例だろう。相手がブラフしまくっているのかそれとも全くしないのかをうまく読めている場合なら別だが、この様な状況下での最大の防御策は、決断にゲーム理論を適用することだ。

このリバーでのオーバーベットが、フラッシュの成立かブラフのどちらかを意味していると仮定しよう。おそらく本物のフィル・アイヴィーは凄すぎて、彼のゲームをこのようにきちんと分類出来るとは思えないが、これは僕の悪夢だ。よってルールは僕がつくる。彼は僕のワンペアをフォールドさせるためにブラフし通すのか?それとも、僕がワンペアであると彼が知っていることを僕が知っていると知っていて、僕が彼がブラフしていると予測していると予測している彼は、一切ブラフを仕掛けないのか?彼はアイヴィーで僕はしょせん僕だ。よってここでは、頭でもプレイでも出し抜いているぞなどという、彼に対してのはったりは一切かまさないことにする。

彼のブラフに対しては全て勝利し、彼のバリューハンドに対しては全て敗北するこの状況下では、僕は彼が何をなそうが影響されない一定の頻度でコールすることにする。実際、彼に僕のハンドを見せて僕が何パーセントの確率でコールするかを教えてやってもいい。それでも彼は僕をやり込めることは出来ないのだ。僕は彼のブラフ率が100%だろうが0%だろうが、その間だろうが、僕の収支が全く変わらない、一定のコール率を見いださなければばらない。

その為には、アイヴィーがブラフベットをする利益のなくなるコール率を見つける必要がある。彼は6,000ドル勝ち取るために14,000ドルのリスクを負っている訳だから、彼のブラフに対する期待値(Expected Value, EV)は、-14,000 (x) + 6,000(1-x)。この場合のxは僕のコール率。この期待値が0になるためのxを求めれば言い訳だ。つまり;

0 = -14,000 (x) + 6,000(1-x)
0 = -14,000x + 6,000 -6,000x
20,000x = 6,000
x = 6,000/20,000 = 30%

アイヴィーがこの状況下で僕にブラフを仕掛けるのを防ぐ方法の一つは、この30%のブラフキャッチング・レンジの方程式をランダムに数値化する計算機を用いてコールすることである。ダン・ハリントンは代用策として腕時計の活用を勧めている。ブラフにしか勝てないハンドを持っているときは腕時計を見る。秒針が18以下ならコール。19以上ならフォールド、という具合。
繰り返しになるが、たとえアイヴィーが僕がこの方式を利用していると知っていたとしても、だからと言って彼が僕から搾取出来る術はないのだ。彼がブラフの頻度を上げれば、それだけ僕が彼をキャッチ出来る。彼がブラフの頻度を下げれば、それだけ僕からスチール出来たはずのポットを逃したことになる。


ブロッカー

上は一つの方法論に過ぎない。30%の頻度でコールする必要があると知っている僕は、ブラフキャッチャー(ブラフには勝てる手)を持っていたら30%の頻度でコールすればいい。
しかし全てのブラフキャッチャーが等しい訳ではない。この例だと僕のハンドがA T である場合と、ほとんど同一のA T では大きな差が生じる。その違いは?
僕がAを持っている場合、アイヴィーがバリューベット出来るためのフラッシュの組み合わせがより少ない、ということになる。上の方程式はアイヴィーのブラフの期待値に過ぎない。僕は常に、フラッシュに勝てるハンドを持っていないので、彼のバリューベットは常に利益を生み出すことになる。僕のリバーでの期待値は、彼のブラフをキャッチした場合に獲得する金額から彼のバリューベットをコールした場合に失う金額の差額に等しい。
僕がA を持っていることによって、相手のレンジからフラッシュの組み合わせ12組が消える。僕がA T でコールする場合では、A T でコールする場合に比べて相手のフラッシュに遭遇する確率が低い。よって、両方のハンドとも全てのブラフに勝ち全てのフラッシュに負けることに変わりはないが、片方のハンドはフラッシュに遭遇する可能性がはるかに低く、すなわちブラフキャッチャーとしてはより優れているハンドということになる。
ATを持っている場合のうち、A を持っている可能性は25%。他のATの組み合わせよりも優れたブラフキャッチャーなのだから、他の組み合わせよりもコール頻度を高めたい。よって、A を持っている場合は100%コールし、他のATの場合はランダム計算機を用いて5%コールする。これによってブラフをキャッチする確率は30%で変わらないが、バリューベットに対して金を失う可能性が低くなるのだ。

ハンドの強さ

上はよいブラフキャッチャーの特性の一つである。すなわち:相手のバリューベット・レンジに対するブロッカーを持っていること。
もう一つ重要な特性は、ブラフキャッチャーは常に相手のブラフに勝っていなければならないということ。これは当たり前のようだが、僕は自分のブラフが相手にコールされたが、結果勝ってしまった、という経験を何度もしている。
この例ではアイヴィーがワンペアでバリューベットしているとは考えにくいので、ATも33も機能的には同じハンドであるかに思える。しかしアイヴィーがワンペアでブラフしていることは考えられる。もしブラフを「正しく」たたき落したつもりが彼のブラフは66で、結果偶然にも彼に貢いでしまった、なんてことになったら悲惨である。
強いハンドは、相手がバリューベットしているハンドにも勝っている可能性がある場合にも有利である。先にも述べたとおりアイヴィーは半端なく優れたプレイヤーなので、あらゆる理屈をこじつけてKTをバリューベットすることも出来る訳だ。そんなことがあり得ないと思っていたとしても、他の状況が同じならば、僕なら念の為にも33は捨ててATでコールする。

 

避ける訓練

結局のところ、最善の対処法はこの様な状況に置かれることを避けることである。ハンドが上の例のように明確に定義出来るような状況に置かれたいはずがない。この悪夢のフィル・アイヴィーのような岩の様に固い読みをする相手にしょっちゅう出くわさなければいいが、それでもブラフキャッチャーに匹敵しないハンドで挑まなければならないような状況は避けるべきだ。

このハンドでのリバーまでのアクションは明らかではないが、仮にトップペアでトップキッカーを持っている僕がターンでベットし、リバーの恐怖のカードでチェックしたとしよう。このプレイスタイル自体は、僕が同様に同じ状況でナッツフラッシュなどの強いハンドをチェック出来るという意味では問題ない。そうすることでアイヴィーがブラフすることもバリューベットすることも防げないが、両者の収益は悪くなる。

ちなみに、もしアイヴィーがリバーで突っ込んで来たときにバリューハンドで勝負出来るのであれば、それによってブラフキャッチング率を調整する必要がある。例えば、僕のレンジの10%がフラッシュで残りがATである場合、ブラフで搾取されるのを防ぐ為の全体のブラフキャッチング率は30%のままなので、ATでコールする頻度は20%で済む。つまり僕はスペードのないATではコールすることはなく、A があった場合でもコール頻度は89%でいい。

この数値はどこから来たのか?フラッシュが僕のレンジの10%だとすると、残り90%がATということになる。これらATのうち1/4がA を含むので、A Tはレンジの22.5%ということになる。しかし僕に必要なコールはあと20%しかないから、A があっても毎回コールする必要はなく、20/22.5はおよそ89%である。これを腕時計の秒針に換算すると、60を掛けてだいたい53。

 

リアルタイムの決断

これらの計算式が実際のテーブルで何の役に立つのだ、と思っている方も多いだろう。僕たちはこのような数学的定理をテーブルから離れたところで訓練し、実際のライブゲームでタフな状況に直面したときに、自分の理解や本能がうまく働くようにしているのだ。実際のゲームではこのように正確に計算することは出来ないかもしれないが、この理解を利用して優れた憶測を立てることが出来る。

もし僕が本当にこの様な状況に置かれたなら、まず、今のハンドと同じ様な状況下で自分がプレイしたであろう他のハンドとの違いを比較する。もし自分がATより強いハンドではリバーでほとんどもしくは全くチェックしないのであれば、ブラフで搾取されないために、ATや同様のブラフキャッチャーでコールしなければならないだろう。

僕の最善のブラフキャッチング率(optimal bluff-catchingfrequency)の裏に隠れた数学は決して難しくない。すなわち:ポットサイズをポットとリバーベットの和で割る、つまりポット/(ポット+ベット)。30%の頻度でコールする必要があると分かったなら、自分のレンジを考え、そのうちこの状況でブラフをキャッチ出来るハンド上位30%は何かを決定しようとする。

優れたブラフキャッチャーの定義は改めて:
(1) 相手がブラフしている全てのハンドに勝つことが出来る
(2) 相手のバリューベットのレンジのうちいくつかをブロック出来る
(3) 弱めのバリューベットよりは勝っている可能性がある
この状況下で僕に与えられるハンドがATしかないとしたら、数学を以前にスペードの含んだ手札が他よりも優れたブラフキャッチャーであることは一目瞭然である。スペードがあったらコールし、なかったらフォールドするだけでも、最善の解決法に非常に近い方策になる。結果、彼が5%の確率で6,000ドルのポットをスチールする可能性を与えることによって、期待値として300ドル損するだけである。

ハイステークのノーリミット・ホールデムでフィル・アイヴィーとヘッズアップ対戦し300ドルしか負けないのであれば...それこそドリーム・カム・トゥルーだ。

原典:
http://www.twoplustwo.com/magazine/issue66/andrew-brokos-bluff-catching.php