ベルーガの法則

 


オーバーベット=ナッシュ均衡の理論

■グッドプレイヤー同士-とくに対戦実績の多い相手同士-で見かけるオーバーベット。そこに潜むナッシュ均衡*を検証しよう

 

理論編

以下の10kヘッズアップイベントでのハンドを例に見てみよう:

賞金10万ドル・ノーリミットホールデム・トーナメント
<2人テーブル>ブラインド:5チップ/10チップ(以下5t/t10等)

Hero(ビッグブラインド、BB):t3500
ボタンもしくはスモールブラインド(BTN/SB):t2500

プリフロップ:(ポットt15)HeroはBB。ハンドA 5
BTN/SBはt20にレイズ、Heroはt10をコール

フロップ:(ポットt40)5 A Q
Heroチェック、BTN/SB t40ベット、Heroはt160にレイズ、BTN/SBはt120コール

ターン:(ポットt360)7
Heroはt320ベット、BTN/SBはt320コール

リバー:(ポットt1,000)Q
Heroはチェック、BTN/SB ?ベット

このケースでは、つねにBBがAxを持っており、かつBTNは50%の確率でQx+を、残り50%はブラフハンドであることを両プレイヤーが知っているとしよう。この状況下でのナッシュ均衡を計算してみよう。

実証:
あなたは上記のボタン(BTN)。次の3つの選択肢がある:
t1,000のポットに対して;
@ t2,000オールイン A t1,000ベット B t500ベット

 

@t2,000ベットする(か全くベットしない)場合

ナッシュ均衡下では、あなたのリバーベットに対して、対戦相手は機械的にコールかフォールドの選択をすることになる。故に、ボタンポジションのあなたとしてはバリューハンド全てをt2,000ベットするとともに、相手にとってのフォールドとコールが同じ期待値になるように、ブラフハンドのうちの一定の割合を同じt2,000ベットするべきである。この理論の方程式は:

-500 = (2500) x ? (2500) (1-x)
-500 = 5000x ? 2500
2000 = 5000x
x = 2/5 = 40%
つまり、このナッシュ均衡下では、BTNのオールインに対してBBはきちんと2/5コールすることになる。よって、BTNはバリューハンドの100%をオールインし、ブラフハンドのうちの2/3をオールインする、という計算。これによってBBは機械的にコールかフォールドの選択をすることになり、BTNは5/6は+t500の期待、そして1/6はBTNがポットを譲り-t500の期待。すなわち:
期待値は+t333。

 

At1,000ベットする場合

この場合も、Qx+の100%と、ブラフハンドのうち一定の割合を加えるべきである。均衡なのでBBは機械的にコールかフォールドを選択するものとする。

-500 = (1,500) x ? (1,500) (1-x)
-500 = 3,000x ? 1,500
1,000 = 3,000x
x = 1/3 = 33.3%
この場合はBBがきちんと1/3コールするようにベットする。つまり、バリューハンド100%とブラフハンド50%。これでBBにとってはコールかフォールドは機械的な選択になり、3/4は+t500の期待、そして1/4がポットを譲り-t500の期待。すなわち:
期待値は+t250。

均衡では、ポットベットは、ポットの2倍のオーバーベットに劣る。

 

Bt500ベットする場合

-500 = (1,000) x ? (1,000) (1-x)
-500 = 2,000x ? 1,000
500 = 2,000x
x = 1/4 = 25%

この場合はBBがきちんと1/4コールするようにベットする。つまり、バリューハンド100%とブラフハンド33.3%。2/3は+t500の期待、そして1/3が-t500の期待。
期待値は+t167。

ベット額が高いほど期待値も高くなる。

 

Cこの理論を究極のケースに当てはめてみよう。

例えば本当にハイスタック、10,000ドルを控えてのリバーの決断だったら?これはもっと小規模のヘッズアップのSit & Goにも当てはまる。とてつもないオーバーベットを仕掛けた場合の期待値は?

-500 = (10,500) x ? (10,500) (1-x)
-500 = 21,000x ? 10,500
10,000 = 21,000x
x = 47.6%
つまりバリューハンド100%とブラフハンド90.8%。

期待値は+453、今までで最高値。


■一般論:対戦相手がブラフキャッチャーより優れたハンドを持っている可能性が極端に低いと確信出来る場合、ハイスタックは武器になる。
ノンバリューハンドでブラフする頻度がより高くなり、チップを有効に使い、逆に奪われるのを防げる。

 

方程式以前の簡単な法則:

  1. 均衡下では、オーバーベットこそが、いかなるタイプのハンドのスモール/ビッグベットの組み合わせよりも一番優れている。
  2. BTNのブラフハンドとバリューハンドの比率にかかわらず、オールインもナッシュ均衡である。その比率は50:50である必要がない。

 

実践編

大前提:大多数のゲームにおいて、ナッシュ均衡は役に立たない
ナッシュは両プレイヤーがお互いの戦略を完全に把握していることが前提。これはばかげている。ナッシュ均衡がある行動を90%の頻度で要求したとしても、あなたはそれを100%行ってしまうかもしれない―誰にも分からないのだ。対戦実績のない平凡なプレイヤーはレンジのバランスを取ろうとしたりはしないし、こちらがバランスを崩したとしても的確に反応せず、致命的なミスを犯し、このハンドでt2,000をオーバーベットしオールインする際に保証されているはずの+300以上の期待値が得られなくなってしまう。統計学的な分散という不安要素もあり、僅かな稼ぎのためにスタックをリスクに曝すことになる。これらは全て正当な不安要素なのだ:もし対戦相手の能力が低くこの理論から離れることでより高い勝率を得られるのであれば、終盤戦であろうが序盤戦であろうがナッシュを採用すべきではない。

しかしながら、徐々にステークを上げて行く中で、
自分の頻度を理解し的確に反応しているとみられる特定の相手が出現し、彼との対戦実績がどんどん積まれて行けば、この均衡の戦略を適用しプレイする必要が出て来る
ここでのナッシュ均衡とはオーバーベットであり、だからこそより高いステークのゲームで見ることが出来る訳である。それは上のケースでは、ビッグハンドを持っていたらリバーでは何が何でも絶対にチェクをしない相手の弱みに付け込むことである。ナッシュはポーカーでは終盤戦のみ通用?否、序盤でタフな対戦相手に遭遇した場合にこそ思い出すべきである。特に対戦実績のある相手ならなおさら。あなたが「ブラフキャッチャーしか持っていない」状況はよくあることだ、とあえて主張させてもらうが、そうでなくとも、均衡のことを考えさせられる状況は他にもゴマンとある。そしてときには直感を裏切るその結論が内向的マスターベーションに勝ると知っておこう。

*ナッシュ均衡(Nash equilibrium)
ゲーム理論における非協力ゲームの解の一種。どのプレイヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせ。ナッシュ均衡の下では、どのプレイヤーも戦略を変更する誘因を持たない。

 

2+2 Postより抜粋:
http://forumserver.twoplustwo.com/58/heads-up-nl/pooh-bah-post-when-overbetting-nash-equilibrium-686134/